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東京高等裁判所 昭和55年(行ケ)231号 判決 1980年10月29日

原告

フエアイニヒテ・エーデルスター

ルウエルケ・アクチエンゲルゼシヤフト(フアウ・エ・ウエ)

被告

特許庁長官

上記当事者間の審決取消請求事件について、当裁判所は、次のとおり判決する。

主文

本件訴えを却下する。

訴訟費用は、原告の負担とする。

事実

第1当事者の求める裁判

原告は、「特許庁が昭和50年審判第1574号事件について昭和55年3月14日にした審決を取消す。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決を求め、被告は、「原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする。」との判決を求めた。

第2当事者の主張

(原告)

請求原因

1  特許庁における手続の経緯

原告は、名称を「金属のエレクトロスラグ再溶解のための装置における再溶解電極、金型、基板或はその均等物の保持装置」とする発明(以下、「本願発明」という。)について、1969月6月17日オーストリア国においてした特許出願に基づく優先権を主張して、昭和45年6月17日特許出願(特願昭45-51952号)をしたところ、昭和49年1月21日拒絶査定を受けたので、昭和50年2月27日審判を請求した。この請求は、昭和50年審判第1574号事件として審理されたが、昭和55年3月14日「本件審判の請求は成り立たない。」との審決があり、その謄本は同年4月9日原告に送達された。なお、出訴のための附加期間を3か月と定められた。

2  本願発明の要旨

有利的には固定した柱に沿うて、例えばロープ装置の助けにより推移可能である金属、就中鋼のエレクトロスラグ溶解装置における消耗性電極、金型、基板或は均等物のための保持装置において、保持装置(20,50,50')が柱(30,30')を囲み、該柱に沿うて垂直方向に推移可能な案内部片(21,51)と、該部片を囲み且つ該部片上で回転可能な回動部分(22,52)とから組立てられ、回動部分に歯冠(24,53)を定着し、該歯冠内に、案内部片(21,51)において回転可能に設けられ、例えば電気駆動モータ(26,53)によつて駆動され得るピニオン(25,55)が係合することを特徴とする保持装置。(別紙図面参照)

3  審決の理由の要点

本願発明と、この発明と同日出願の特願昭45-51953号発明とは実質的に同一のものであるから、特許法第39条第2項の規定により、本願発明は特許を受けることができないものである。

4  審決の取消事由

原告は、昭和55年8月4日本願発明の特許出願を取下げた。これにより特許法第39条第5項の規定に基づき、同条第2項の適用については初めからなかつたものとみなされるので、本願発明の出願は同条項の規定の適用を受けるべきではなく、この規定に基いてされた審決は違法なものとして取消されるべきである。

(被告)

請求原因1ないし同3の事実及び原告が昭和55年8月4日本願発明の特許出願を取下げたことは認める。

第3証拠関係

原告は、甲第1号証を提出し、被告はその成立を認めた。

理由

特許庁における本件手続の経緯が原告主張のとおりであること及び原告が昭和55年8月4日本件の特許出願を取下げたことは当事者間に争いがない。

ところで、特許出願は、拒絶査定が確定するまで又は特許権の設定の登録がされるまでは、これを取下げることができ、特許出願が取下げられたときは、その特許出願は遡つて初めからなかつたものになると解するのが相当であるから、これに伴ない、原告が本訴において取消を求める審決は、原告の上記出願の取下げにより当然に失効したものというべきである。

そうすれば、本件訴えは、既に効力を失つた審決の取消を求めることに帰するから、法律上の利益を欠く不適法な訴えとして却下を免れない。

よつて、訴訟費用の負担については行政事件訴訟法第7条、民事訴訟法第89条の各規定を適用して、主文のとおり判決する。

(荒木秀一 藤井俊彦 杉山伸顕)

<以下省略>

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